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撮影:吉村永

留学はランゲージではなくカルチャーを学ぶ機会

中国語の音のきれいさに習いたいと思った

──台湾に留学されていたそうですね。
19歳と20歳のときに行きました。それぞれ1〜2ヶ月くらいで、ホテルに泊まりながら語学学校に通いました。
──留学しようと思ったきっかけは?
13歳で初めてお仕事をさせてもらったときに、上海でCM撮影があったんです。それでそのときに現地で耳にした中国語の音がきれいで、習いたいと思いました。独学で勉強もしましたが、『很好!しゃべっチャイナ』というBSの番組で1年くらい取り組むことができて、さらに留学後もEテレの語学番組『テレビで中国語』をやらせていただきました。ただ、台湾と中国では繁体字と簡体字の違いがあって、中国語ができる人は繁体字も読めると聞いていたのですが、私にはできなかったので、そこだけけっこうな壁を感じました。
──留学中はどんな生活でしたか?
語学スクールで先生とのマンツーマンレッスンを受けていました。あとは、友達がいなかったので、「私は友達がいない。友達が欲しい」という中国語のフレーズだけ覚えて、台湾の渋谷のような場所に友達を作りに行ったんです。実際にそうやって声をかけたら、ちょうど私が出演している映画が台湾で公開されていて、すぐ後ろに自分の映画のポスターが貼ってあったんですよ(笑)。それで「I know you.」「ドラマ見てるよ!」ってすぐにバレて、仲良くなりました。
──コミュニケーションは中国語?
日本が好きで少しだけ日本語が話せる子がひとりいましたが、ほかの人たちは中国語なので、ジェスチャーも交えながら頑張って話しました。ダンススクールにも通っていたので、語学とダンス、交互に行って、遊んで……みたいな忙しい毎日でした。
──ご自身が台湾でも知られていることは、ご存じでしたか?
全然知らなかったから、びっくりしました。実は、留学を考え始めたころ、東京で雨が降っていて、駅で傘を貸してくれた人がいたんです。その人は「あ、大丈夫ですから」ってそのまま行ってしまったんですけど、そのときに「私、ここにいちゃいけない」って思ったんですよ。たぶん、北乃きいだと分かって傘を貸してくれたんだろうなという感じがあって、普通の人として生きていたらされないことをしてもらっている環境に、すごく違和感がありました。だから、自分のことを知らない国に行って、別の世界の人として暮らすことが大事なんじゃないかと思って。だけど台湾に行ったら、自分のポスターがあって……ちょっと場所が近すぎましたね(笑)。
──英語も学ばれたそうですね。
そうなんです。ここで言うのもなんですけど、元々、英語はあまり好きではなくて、それで中国語に逃げた部分もありました(笑)。地元の横須賀は米軍基地があって、同級生にもアメリカと日本のミックスの子がたくさんいたり、ドル札が使える場所があったり、英語の看板があるような環境で、小学生のころも英会話教室に通っていたんですが、ずっとしゃべれなかったんです。それで23歳くらいのときに「もう一度台湾に行きたい」と3回目の留学を事務所に相談したら、「英語だったらいいよ」と言われたんです。それでスペイン人の友達に「ニューヨークがいいよ。ニューヨークはチェンジライフだよ」と言われて、ニューヨーク留学を決めました。
──留学期間はどれくらいでしたか?
トータルで2〜3カ月です。最初にテストを受けて、エレメンタリー(初級)クラスに入ったんですが、ちょうどリオデジャネイロ五輪が近い時期だったのでブラジル人が多くて。あとはリビア人や日本人、韓国人、中国人が同じクラスにいました。
──どんなクラスメイトでしたか?
初級クラスなので、みんな自国の言葉がメインなんです。あとは学校の先生がブリティッシュで、外は当然アメリカン、ホームステイ先のお母さんが使うブラックイングリッシュと、全部違う音とリズムに混乱して、熱が出たこともありました。

ランゲージではなくカルチャーを学ぶ機会

──文化の違いは感じましたか?
すごく感じました。例えばホームステイ先で「冷蔵庫にあるものは何でも食べていいよ」と言われたので、朝にピザを焼いたら、「モーニングにピザはノー。ピザはディナーよ」って言われました(笑)。
──確かに、ピザを食べるのは間違いなく夕食ですね。僕の出身地であるペンシルバニアも同じで、朝食で食べることはないと思います。
そうなんですね! そういうギャップには戸惑いました。言葉だけじゃなくて慣習が違うんだなって。それで、留学はランゲージではなくカルチャーを学ぶ機会だと気付いたんです。
──スペイン語も学ばれたとか。
チリで学びました。チリのスペイン語は速いうえに、ちょっとショート。たとえば「ブエノスディアス」を「ブェンディア」ってSを発音しなかったり、方言で語尾が変わったり、チリでしか通じない言葉もあったりして難しかったです。だから逆にそれを話すと分かる人からは「チリで学んだんだね」って言われます。
──スペイン語を学ばれた理由は?
小学生のときに初めて買った海外のCDが、スペイン人のマリア・イサベルという女の子の歌だったんです。そのスペイン語の響きがクールだなと思って、学びたいと思いました。ただ、実際に始めるまでが長くて、26、7歳くらいでようやく勉強を始めました。
──語学を学ぶことが好きなんですね。
大好きです! もう全部の言語を話せるようになりたいくらい。でも、コロナ禍以降、海外に行けていないので、ぜんぜん使えてないです。
──これまでに学んだ言語は?
英語、中国語、スペイン語、あとは韓国語も少し覚えました。でも韓国語は現場での撮影用語がほとんどでした。それと結局、学校に入ってしっかり学んだものが一番話せると思います。スペイン語の方があとから学んだけど、若いころに学校で発音から順番通りに学んだ中国語の方が、いまだに一番話せます。やっぱり基礎が大事なんですよね。だから今は英語のフォニックスもYouTubeでやっています。
──複数言語を学ぶと、混乱しませんか?
します(笑)。スペイン語を話したいのに中国語が出てきたり、英語とスペイン語がミックスになったり。でも、コミュニケーション自体はそれで何とかなっているところもあります。英語で分からない単語が、スペイン語なら分かる、みたいなこともあって不思議ですね。
──愛犬にはスペイン語で話しかけているそうですね。
はい。うちの犬は、スペイン語と英語と日本語を理解しています。スペインの友達が家に遊びに来て滞在していたときに、ずっとスペイン語で話しかけていたので覚えたんだと思います。「キエロコメール(食べたい)?」って聞くと「ワン」って言ったり、「エスペラ(待て)」って言ったり。通じなかったら「ウェイト」って言ったり。逆に、日本語はちょっと弱いかもしれないです(笑)。
──仕事で語学力が活きた場面はありますか?
舞台『ウエスト・サイド・ストーリー』のときは、スタッフがニューヨークの方たちだったのでよかったです。通訳の方が入ると、ニュアンスが少し変わってしまうこともあるんですが、直接聞けると違いますよね。あと、ダンスの先生がプエルトリコ系の方で、英語にスペイン語が混ざるスパングリッシュだったので、私には聞き取りやすかったです。

「Never too late.(何事も遅すぎることはない)」
私も学び続けていくので、みなさんも一緒にがんばりましょう。

人生で後悔しなかったことそれが留学したことだった

──昨年、女優デビュー20 周年を迎えられましたが、続けてこられた理由はなんですか?
気づいたら20年経っていた、という感じです。でも仕事の合間に海外に行けたのは本当に良かったと思います。私は人生で一番後悔していなくて、「やってよかった」と心から思えたのが留学なんです。「行きたいよね」「やりたいよね」と言って、行かない人、やらない人が多いけれど、留学だけは本当に後悔しないから、やったほうがいいよって妹にも言っています。私自身、大学に行っていないこともあって、20代の頃に「どこ大学出身なの?」みたいな話になると輪に入れないことがありました。だから、知識を身に付けなければいけないと思ったんです。もちろんいいことばかりではなくて、ニューヨークでは差別を目の当たりにすることもありましたが、それも含めて、すごく勉強になりました。
──―今後やりたいことはありますか?
海外に行く仕事が好きなんです。グラビアをやっていたときも海外が多くて、15カ国くらい行きました。スウェーデンなどのヨーロッパに、イランにも行きました。一度イランへ行くと、アメリカへの入国審査が厳しくなると聞いて勇気が必要でしたが、勉強として行けてよかったです。だから、生きているうちにもっとたくさんのところに行きたい。仕事でも、舞台『ロミオ&ジュリエット』でジュリエットを演じたときのディレクターがイギリス人で、「イギリスで演劇やらない?」と言ってくれたこともあって、そういう道もいいなって。だったらブリティッシュ英語も、いちから学びたいと思いました。
──最後に、ECCに通われている生徒さんへメッセージを。
今はYouTubeなどのコンテンツも充実しているし、自宅でオンラインレッスンもできる。言語を学ぶにはすごくいい環境だと思います。ECCには幅広い年代の生徒さんがいると聞いて、私も「Never too late.(何事も遅すぎることはない)」だなと、勇気をいただきました。私も学び続けていくので、みなさんも一緒にがんばりましょう。

Interviewer
Ryan Leach
ライアン・リーチ

ECC外語学院の外国人講師。アメリカ出身。日本が大好きで神社やお寺巡り、お守り集めのほか、UFOキャッチャーやラーメン、公園、美術館に行くのが趣味だとか。

北乃きい

1991年3 月15日生まれ、神奈川県出身。趣味は中国語、特技はモダン・クラシックバレエ。2005年に女優デビューし、映画やドラマ、舞台、歌手と幅広いジャンルで活躍。第45回ゴールデン・アロー賞新人賞や第31回日本アカデミー賞新人俳優賞など、数多くの賞を受賞。

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